包丁の鋼材について、鋼についての説明をします。
鋼と一言でいっても、実際に包丁に使われるものには、白紙や青紙といったものを筆頭に、いくつかの種類があります。
違いを良く知らないと、質の悪い包丁を高く買ってしまうし、理解せずに使っていると、欠けさせてしまったりしてしまいます。
これらについて、種類別にメリットやデメリット等を説明していきます。
①白紙・青紙って?どう違うの?
②白紙・青紙以外の鋼について
③本焼き・霞・割り込みについて
どんな包丁をお勧めするかについては、別の記事『包丁の選び方。ステンレスか鋼か?値段の違いは?』で紹介しているので参考にしてみてください。
鋼の種類
鋼とは鉄に炭素を加えたもののことをいいます。
具体的には、炭素含有量が0.04~2.0%含まれるもののことで、これより少ないものは軟鉄、多いものは鋳鉄と呼ばれます。
鉄に炭素を加えることで、鉄は硬くなります。
もっとも硬い鉱物としてダイヤモンドは有名ですよね。
このダイヤモンドも炭素でできています。
日本で作られる鋼として、市場に出回っているほとんどが島根県安来市で作られている安来鋼(ヤスキハガネ)です。
このほかにも、スウェーデン鋼、玉鋼などがありますので、これらの特徴と違いについて説明します。
安来鋼(ヤスキハガネ)とは
日本で生産される包丁・ナイフ用の鋼のほとんどが島根県安来市で作られる安来鋼です。
シリーズとして黄紙(黄鋼)、白紙(白鋼)、青紙(青鋼)がありますが、現在では黄紙はあまり作られていないようで、世間に出回るのは白紙と青紙になります。
白紙(鋼)の特徴
純度の高い砂鉄から作られているそうで、不純物が少ないため、切れ味の良い包丁を作り出すことができます。
鋼の硬さに影響を与える炭素量により、白3、白2、白1と分けられており、白1がもっとも炭素量が多く、もっとも硬い鋼材になりますが、価格ももっとも高くなります。
ただし、注意が必要なのが、不純物が少ない分、硬さがとても硬く青紙に比べて欠けやすいという欠点を持っています。
そのため、切れ味が悪くなるのが若干早いです。その代わり、切れ味はとても鋭いものになります。
・非常に硬く鋭い切れ味がでる
・青紙より価格が安い
・研ぎやすい
・粘りが少なく欠けやすい
・耐摩耗性が低く切れ味が早く悪くなる
また、白1になるととても硬いです。
研げない硬さではありませんが、かなり苦労する硬さです。
HRC硬さで64程度にもなると言われています。
白3であれば60前後のようです。
HRC硬さとは
工業材料の硬さを表す尺度の一つです。0~70の数値で表され、包丁の鋼材としては、60以上くらいあれば十分と言われています。安いステンレス包丁が55程度と言われています。
逆に70近くになると、とても硬く、むしろ硬すぎて、研ぐことがとても困難になりますが、実際に刃物で70になるようなものはほとんどありません。
青紙(青鋼)の特徴
青紙は、白紙にクロームやタングステンなどを加え、粘り強さを加えたものです。
そのため、白紙に比べ、欠けにくく、切れ味が持つという特徴があります。
ただし、タングステン等の高価な鋼材が加えられているため白紙に比べ価格が少し高くなってしまいます。
価格にして約1.5倍程度です。
青紙についても白紙同様、炭素の含有量により、青2、青1、青S(青紙スーパー)と分けられており、青Sが最も硬く、価格も高いものになります。
青Sはかなり硬いうえに粘りもあるため研ぐのがものすごく大変です。
・切れ味が長くもつ
・欠けにくい
・非常に硬く鋭い切れ味がでる
・白紙より価格が高い
・青Sにもなると研ぎにくい
HRC硬さで65程度と言われており、包丁やナイフに使われる鋼材の中でもかなり硬い方の鋼材になります。
包丁やナイフとして使う鋼材で、この青Sよりも硬い鋼材はほとんどありません。
ZDP189やカウリX、HAP72くらいです。
ZDP189については別の記事でレビューしているので参考にしてください。
日本鋼って?
実際に刃物店にいって包丁やナイフをみると、材料に”日本鋼”や”特殊刃物鋼”と書かれたものがあります。
これは具体的には”SK鋼”と呼ばれるものがほとんどです。
この”SK鋼”とは、安い代わりに質も悪い鋼です。
SK鋼と書いてしまうと知っている人が見れば『安い鋼材を使っているな』というのが分かるため、あえて”日本鋼”と記載しています。
『日本鋼』とは鋼材をごまかしたい商品が利用する記載方法
これと同様に、材料に単に”白紙(鋼)”と書かれたものは、もっとも安い”白3”を使っていることが多いです。
ですので購入する際は、白1か白2か確認できるものを買うといいでしょう。
スウェーデン鋼とは
スウェーデンでは良質の鉄が産出されるそうで、日本のようにわざわざ砂鉄から鉄をつくらずとも良質の鋼を作ることができるそうです。
そのスウェーデン鋼で作られた包丁は日本では数は少ないですが、出回っています。
包丁の有名3大ブランドと言われている、正本、有次、木屋のうち、木屋にはスウェーデン鋼のシリーズがあります。
玉鋼とは
むかしながらのたたら製法で作られる鋼です。映画もののけ姫にでてきたたたら場を思い出してもらえれば分かりやすいと思います。
今では日本刀製造のために玉鋼を製造しているのみで、ほとんど市場には出回りません。
そのため、玉鋼を使った包丁などはものすごい金額がします。
ネット等ではものすごく優秀な鋼材のように書かれておりますが、個人的には怪しんでいます。
たたら製法なんて言う何百年も前に確立された方法で作られたものよりも、現在の科学的理論に基づいて作られたものの方が当然いいものができるんじゃないかと思います。
硬さもHRC硬さで60に届かないそうです。少なくともロマンはあります。
ダマスカスって?
もともとは古代インドで開発されたとされるウーツ鋼の別称で、シリアのダマスカスで刀剣等に加工されたことからこの名前がつきました。
ウーツ鋼の技術自体はすでに失われてしまっており、今は、異なる種類の金属をミルフィーユ上に積み重ねることで、波模様をだしています。
見た目がかっこよく、とても美しいのですが、切れ味には全く影響がありません。
そのため、ネット上では『騙すカス』などと呼び、毛嫌いする人もいます。
これは、ダマスカスが切れ味がいいかのような広告をしている包丁の商品があることが要因かと思います。
ステンレスと鋼は何が違う?
鋼もステンレスも基本的には鉄を主成分にしたものです。
上でも説明したように、鋼は炭素含有量が0.04~2.0%含まれるもののことです。
ステンレスは、鉄にクロームを13%以上加えたもののことをいいます。
クロームと空気中の酸素が反応することにより、鉄の表面に酸化被膜ができ、この酸化被膜によりさびにくくなります。
表面にうっすらとごくごく薄く、錆びの膜をつくることでさびにくくさせています。
本焼き、霞、割り込みって
包丁、特に和包丁は、作り方により大きく3つ(本焼き、霞、割り込み)に分けられます。
本焼き すべてが鋼だけで作られた包丁
霞 柔らかい軟鉄と硬い鋼をくっつけた包丁
割り込み 硬い鋼を柔らかい軟鉄で挟み込んだ包丁
それぞれにメリットやデメリットがありますので順に説明します。
本焼きの包丁とは
鋼だけで作られたもののことです。
包丁って普通鋼で作られてるんじゃないの?
と思うかもしれませんが、
実は、鋼のみで作られる包丁は非常に珍しいんです。
ほとんどの包丁は、柔らかい鉄(軟鉄)と貼り合わせて作られていたり、軟鉄に鋼を挟み込んで(サンドイッチして)作られています。
本焼きの包丁は、鋼だけで作られているのでとても硬いです。
砥石で研ぐのがとても大変なくらい硬いです。
また、もろいです。
硬い鋼で作られているため、落としたりしようものなら、欠けたり割れたりします。
さらに、値段も高いです。最低10万円くらいからしまです。
繊細な包丁のため、職人が作るときも必ず成功するとはかぎりません。
焼き入れの際に割れたり、歪み取りの際に割れたりします。
メリットは何か、細かい点はいくつかあるかと思いますが、最大のメリットはロマンではないでしょうか?
・ロマンがある
・霞包丁と比べ刃が反りにくい
・硬さがある
・価格が高すぎる
・割れたり欠けやすい
・硬すぎで研ぐのが大変
霞包丁、割り込み包丁の特徴
軟鉄とくっつけて作られたものを霞包丁といい、軟鉄に挟み込んで作られたものを割り込み包丁といいます。
霞包丁のイメージはかまぼこです。かまぼこ板(軟鉄)にかまぼこ(鋼)をくっつけるようなものですが、分かりにくいですかね(笑)
割り込み包丁のイメージは焼きそばパンです。焼きそばが鋼でパンが軟鉄になります。
これらは鋼と軟鉄でつくられています。
この軟鉄を合わせることで、研ぎやすくなります。
硬い鋼だけでできた本焼きの包丁を砥石で手で研ぐのはとても大変ですが、軟鉄と貼り合わせているので、半分は軟鉄を研げば済みます。
それでも鉄を手で研ぐ必要があるので、大変なことには変わりありません。
また、柔らかく柔軟性がある軟鉄と貼り合わせてあるため割れにくくなります。
デメリットとしては、霞包丁によくありますが、柔らかい軟鉄と硬い鋼が貼り合わされているため、時間が経つと、柔らかい鋼の方に包丁が反ってしまうことがあります。
ヤフオクなんかに出展されている霞の刺身包丁(30cmくらいの)なんかを見ると、反っているのがよくわかります。
・研ぎやすくなる
・割れにくくなる
・霞の場合、鋼側に反ってしまう
・霞の場合、鋼側がサビてしまうと取り返しがつかないことがある
白紙・青紙の違いまとめ
包丁に使われる鋼について説明しました。
白紙の方が値段がやや安く、するどい切れ味が出やすいです。
青紙の方が値段がやや高いものの、粘り強く切れ味が長持ちします。
では私がおすすめする包丁は何かというと、ステンレスです。
こんだけ鋼について説明しといて、結論はステンレスかい!!
と思うかもしれませんが、だってステンレスの方が圧倒的に使い勝手がいいんです。
錆びない(さびにくい)し、金額も手ごろなものからあるし。
しかも最近のステンレスはどんどん新しいものが発明され、鋼以上の切れ味があるものもあるし。
はっきり言って普段使いするのであれば、ステンレス一択ですね。
おススメは藤次郎のDPコバルトシリーズです。
では、なぜ私は、鋼製のナイフや包丁を何本も持っているのか。
それは、日本の職人が1本1本手で打って作られたというところに単純にロマンがあるし、大事に使えばやはり鋼の方が切れ味が良い(気がする)からです。
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